業務委託の罠 | 著作権侵害判定サイト

業務委託の罠

著作権

前回は業務で陥りがちな身近なリスクとして、「フリー素材」について取り上げました。今回は、こちらも最も身近なリスクの一つとして、「業務委託」について取り上げます。

■業務委託契約によるHP作成の例■

ご存じの通り、業務委託契約は、B2Bビジネスで最もポピュラーな契約の一つとして活用されており、皆さんもその当事者あるいは関係者となったことがあるのではないでしょうか。私自身も、これまで多くの業務委託契約を経験しており、例えば特許出願明細書の作成等も、典型的な業務委託契約の例になります。

 

本コラムでは、貴社のHPのコンテンツの作成を、業務委託契約により第三者の業者に委託する場合を考えます。一般にHPの業務委託契約※1では、委託者(貴社)の要望に応じて、受託者(業者)が一定の成果物(HPを構成するデータ等)を納品してくれますので、貴社は、発信したい情報や、ターゲットユーザー、アピールの方法などの要件を業者に伝えるだけで、当該業者が、その専門知識及び経験に基づいて、これらの要件にマッチした構成を考案し、編集したうえで、貴社のHPを作成して納品することになります。

※1 一口に「業務委託契約」といっても、民法上の委任契約または準委任契約(仕事の完成(成果物の納品)を前提としない)に近いものから、請負契約(仕事の完成(成果物の納品)を前提とする)に近いものまで様々なケースがありますが、ここでは、受託者が成果物について責任を負う請負契約に近い例を仮定します。

■業務委託契約のメリット■

“時間をお金で買う”典型的な例として、このような業務委託契約を活用することにより、全体として事業活動を効率的に実施することができます。また、業務委託契約を活用すれば、貴社は、前回取り上げたフリー素材のリスクも含めた複雑な著作権のリスクに囚われることなく、短期間に目的を達成することができそうです。

 

一般に、著作権に関する問題は複雑であり、かつ、事業活動に非常に身近に存在しているリスクであるために、業務委託契約により、このような問題から貴社が解放されるとすれば、単なる時間の削減だけではなく、リスク管理上のメリットも大きく、まさに一石二鳥の効果がある、と言えるでしょう。

■業務委託契約で気を付けること■

では、業務委託契約は万能でしょうか?実は、ここに“業務委託の罠”が潜んでいます。

 

まず、①貴社が委託した業者自身の成果物が、第三者の著作権を侵害しているリスクがあります。まさかと思われるかもしれませんが、著作権の問題は複雑で身近であるがゆえに、専門の業者にとっても“うっかり侵害してしまっていた”、ということが起こり得るのです。

 

次に、②貴社が委託した業者が、著作権に関して最後まで責任を取ってくれないリスクがあります。こちらも、まさかと思われるかもしれませんが、公開したHPが第三者の著作権を侵害していた場合、その第三者との関係では、貴社が著作権侵害の責任を負うこととなり、そこで貴社が負担した責任を、貴社が委託先の業者に契約に基づいて追及するという構図になるので、例えば、その業者が倒産してしまった場合、貴社がその業者に対して責任を追及することができなくなってしまいますので、HPを公開した貴社の責任は、結局のところ、最終的にも貴社自身が負うことになります。

 

したがって、業務委託契約の委託者として、これらのリスクについて貴社が適切に対応することにより、業務委託契約のメリットが最大限発揮され、貴社はその効果を享受することができるようになるのです。

 

■①貴社が委託した業者自身の成果物について著作権のクリアランスを保証させる■

これは、分かりやすく言うと、業者の成果物について、業者自身に第三者の著作権を侵害していないことを保証させることです。具体的には、業務委託契約書の中で、そのような規定を入れておくことにより実施します。

 

ただ、単に契約書に明記しておけばいいというわけではなく、契約条件のやり取りを通じて、業者が本当にその規定の内容を理解しているかどうか、確認しておくことも重要です。実際のところ、本件「著作権侵害簡易判定サービス」においても、受託事業者様からの質問も多く受けており、“コンテンツのプロフェッショナル”にとっても著作権法は複雑でわかりにくい法律である、という実態があることを強調しておきたいと思います。

 

また、契約書そのもののやり取りに拘泥することなく、出来上がった成果物を確認する際に、写真やイラストの作成経緯を確認したり、第三者の素材を活用している場合は、必要なライセンスを受けているかなど、権利処理が適切になされていることを確認したりして、検収前に必要な修正を依頼することも重要です。例えば、前回取り上げた「フリー素材」についても複雑なリスクがありますので、権利処理の状況について具体的に聞いてみるだけでも、当該業者の理解レベルや著作権管理能力を推定する材料が得られると思います。

 

■②貴社が委託した業者の管理能力、財務体力等について調査する■

これは、①で契約上クリアにしたはずのリスクを貴社自身が被る可能性について、想定しておくということです。要するに、業者自身が倒産する等により、契約上の責任を果たすことができなくなる可能性に備えておく必要がある、ということです。

 

考えてみれば分かることですが、貴社が業務の効率アップ、リスク回避を目的として業務委託契約を活用すること自体は合理的な判断ですが、その委託先の業者がどこまでもリスクを被ってくれるわけではありません。

 

例えば、業務委託契約の中で、著作権侵害等の成果物に関するリスクについて、貴社が免責となる損害賠償額は、貴社が支払った業務委託報酬額を上限とする、といった条件が付いていることもあるでしょうし、たとえそのような上限が規定されていなかったとしても、その業者自身が倒産してしまった場合を考慮して、当該業者の財務体力などを調査しておくことも重要です。①で述べた権利処理の状況確認なども併せて、普段のやり取りを通じて、業者の管理能力や財務体力について理解を深め、貴社の事業パートナーとして信頼関係を構築していくことが重要です。

 

■結局のところ著作権侵害リスクの基本知識は必要■

このようにみてくると、業務委託契約によって、著作権侵害リスクは消えてなくなるわけではなく、委託先の業者との信頼関係を構築することにより、初めてコントロール可能となることが分かります。見方を変えれば、自社でHPを構成、編集する場合に比べて、委託先の業者の著作権に関する知識や管理能力、財務体力など、確認事項は増えていることに気づきます。

 

本件「著作権侵害簡易判定サービス」でも、問5で「外注・委託」の有無について確認しているのも、そのような背景からです。業務委託契約による著作物の創作活動がスムーズに進み、全体として効率的な事業活動を促進するためにも、具体的に発生した疑問点については、ご遠慮なく本サービスを活用いただければと思います。

 

最後までお読みいただきありがとうございました!

 

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