「著作物」を産み出した「著作権者」の権利を守るため、そして文化の発展に寄与するために存在する「著作権」。「著作権」を持つ「著作権者」は、自らの作品におけるさまざまな権利を有しています。
一方、もしも自らの「著作物」が無断使用されたり、盗作されたりした場合、「著作権が侵害されていること」を証明するには、「著作権者」がさまざまな事実を主張・立証しなければなりません。
実際に、「著作権者」にどのようなアクションが求められ、どのような条件下で「著作権の侵害」が立証されるのか、ポイントを押さえて解説します。
著作物の権利を侵害されたら?
たとえば、AさんというミュージシャンがSNS上で、数ヶ月後に発売されるアルバムに収録予定の楽曲を公開したとします。
それを聴いたフォロワーのBさんは、楽曲をとても気に入りました。そして、Aメロ、Bメロ、Cメロまで、Aさんの楽曲とコード進行がほぼ同じで、テンポだけ速めたものを自らのオリジナル楽曲として動画投稿サイトで拡散させてしまったのです。
Bさんがアップロードした楽曲は、原曲がAさんの楽曲であるということを知らない人たちの間で話題になり、とうとう有料配信で収益をあげられるようにまでなりました。
この事実を知ったAさんは激怒し、Bさんを「著作権の侵害」で訴えることにしました。
この場合、まずAさんは以下の二点を主張しなければなりません。
- 自らが原曲となる楽曲の「著作権者」であること
- Bさんが「Aさんに無断で類似した楽曲を作成、発表した」として、その「権利が侵害された」こと
Aさんが【1】を主張するためには、自らが原曲の作曲者であること、演奏もしているのであれば実演者であることを立証する必要があります。
また、【2】の主なポイントは、Bさんが動画投稿サイトにアップロードした楽曲が「Aさんの楽曲(著作物)や演奏(実演)に依拠した、同一または類似の楽曲であること」です。
「依拠」とは「よりどころにする」という意味であり、「BさんがAさんの原曲を基にして類似した楽曲を無断で作成、発表した」ことが重要となります。
次に、Aさんは楽曲をアルバムに収録するつもりでいたので、Bさんの行為によって将来的に得られる金銭的な利益も損なわれたと考えました。そのため、「損害賠償の請求」をするにあたり、以下の事実も主張・立証する必要が出てきました。
- Bさんが「Aさんの楽曲を認識していたうえで類似した楽曲を発表した」こと
- Bさんの侵害行為によって発生した、あるいは今後起こり得ると考えられる損害内容、その因果関係
- 類似曲のアップロードおよび有料配信によって、損なわれたと考えられる具体的な損害額
さらに、類似曲が動画投稿サイトですでに広く拡散されていたとしても、その事象を放置するわけにはいきません。
もし、今後も「Bさんがつくった楽曲」として類似曲が公開されたままでいれば、事実を知らない第三者がBさんを評価することも考えられ、Aさんの権利が侵害し続けられるおそれがあるためです。
そこで、AさんはBさんに対して「差止請求」も行なうことにしました。「著作権の侵害」に関する「差止請求」には、以下の3種類があげられます。
- 侵害行為の停止
- (将来的に侵害のおそれがある者に対する)侵害行為の予防
- 侵害行為に使用された機器の廃棄など
今回のケースでは、Bさんはすでに類似曲を動画投稿サイトで配信し、有料配信で収益を得ています。しかし、仮にそうした行為がまだ行なわれていなかったとしても、Bさんが将来的にAさんの権利を侵害する行為をするおそれがあると認められれば、事前に差し止めることもできるのです。
こうした訴えに対し、被告側は以下のような抗弁をすることがあります。
- 権利制限
- 存続期間満了
上記の抗弁は、「公共の福祉」などを理由に「著作物」を無断利用できる例外が適用されたり、「著作物」の公開または実演年数などの経過により「著作権」の存続期間が満了していたりする場合に、受け入れられる可能性があります。
しかし、今回のケースでは、「あくまでBさんの私的利用であること」「Aさんが楽曲をつくって年数が経過していないこと」から、こうした対策は意味をなさないでしょう。
請求のポイント
「著作物」に関する権利侵害を訴える場合、自らが「著作物」においてどのような権利を有しているかによって、主張・立証するポイントが異なってきます。
著作権の侵害を訴える場合
前述のケースでは、Aさんは楽曲(著作物)の「著作権者」となります。しかし、それ以外に考えられるケースとして、Aさんが第三者であるCさんに「著作権」を譲渡している可能性や、Aさんが法人に所属したスタジオミュージシャンであり、法人の意向で楽曲を作成したため法人が「著作権」を有していることなどが考えられます。
このように「著作権者」イコール必ずしも楽曲を作曲した人物ではない可能性もあるため、「著作権の侵害」を訴える場合には、以下のいずれかを主張・立証しなければなりません。
- 原告が創作行為を行なった「著作権者」であること
- 原告が「著作権者」から「著作権」を譲渡されたこと
- 原告が「職務著作」の要件を満たす「著作権者」であること(※1)
- 原告が映画制作者としての「著作権」を有していること(※2)
以下いずれかの要件を満たす「著作物」を「職務著作」と呼びます。
・法人等の発案で創作された
・法人等の業務に従事した者により創作された
・法人等の職務において創作された
・法人等の著作名義で公表された
・法人等の契約や就業規則において別段の規定なく創作された
−法人その他使用者(以下この条において「法人等」という。)の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成する著作物(プログラムの著作物を除く。)で、その法人等が自己の著作の名義の下に公表するものの著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。
−法人等の発意に基づきその法人等の業務に従事する者が職務上作成するプログラムの著作物の著作者は、その作成の時における契約、勤務規則その他に別段の定めがない限り、その法人等とする。(著作権法第十五条)
前述のAさん・Bさんのケースにはあてはまりませんが、争点となる「著作物」が映画作品の場合、プロデューサー、監督、撮影監督など、「『著作物』の全体的な形成に創作的に寄与した者」が「著作権者」とされます。そのため、原作の著作者イコール「著作権者」という扱いにはなりません。
−映画の著作物の著作者は、その映画の著作物において翻案され、又は複製された小説、脚本、音楽その他の著作物の著作者を除き、制作、監督、演出、撮影、美術等を担当してその映画の著作物の全体的形成に創作的に寄与した者とする。ただし、前条の規定の適用がある場合は、この限りでない。(著作権法第十六条)
著作者人格権の侵害を訴える場合
「著作者人格権」とは、著作者の人格的利益を保護するためのものです。「著作物」の公表の可否や公表時期を決める「公表権」、「著作物」への記名の有無や著作者名の表記を決める「氏名表示権」、「著作物」を無断で改変されることを拒否できる「同一性保持権」の、三つの権利が存在します。
「著作者人格権の侵害」を訴える場合には、下記のいずれかを主張・立証する必要があります。
- 原告が創作行為を行なった「著作権者」であること
- 原告が職務著作の要件を満たす「著作権者」であること
著作隣接権の侵害を訴える場合
「著作隣接権」とは、「著作物」の創作者ではないものの、その伝達に重要な役割を果たしている個人や団体が持つ権利です。
Aさん・Bさんのケースでいえば、Aさんの創作した楽曲を第三者であるDさんという歌手が歌唱する場合、Dさんには実演者としての「著作隣接権」が発生します。
また、Aさんの創作した楽曲のレコード制作者や、楽曲を放送する放送事業者、有線事業者などもこれにあたります。
「著作隣接権の侵害」を訴える場合には、下記のいずれかを主張・立証する必要があります。
- 原告自身が実演家であること(※実演家=歌唱者、演奏者など)
- 実演家などから権利を譲渡されたこと
一般的には、このような主張・立証はかなり大変です。裁判所では、原告・被告それぞれの「主張」に対して、なぜそれが法律的に認められるのかを「立証」することを求められ、「証拠」が求められるからです。
上記の例では、Aさんは、①自らが「先」に楽曲をSNSに投稿して「公表」をしたこと、②それをフォロワーのBさんが聴取して、これを参考として(依拠して)二次的著作物として原曲と似た自らの楽曲を創作し、「後」からそれを動画投稿サイトに投稿・拡散したこと等を示す「証拠」が必要になります。
SNSや動画投稿サイトに、それぞれが投稿した日付がタイムラインで残っていれば、創作の「前後」の立証はできるかもしれません。
一方で、Aさんからすれば他人であるフォロワーのBさんが本当にその原曲を聴いたのかどうかを示す証拠を手に入れるのは簡単ではないでしょう。
仮にAさんがBさんを裁判所で訴えたとしたら、Bさんは開き直って「Aさんの楽曲を聴いたことはない」、「たまたまコード進行が一致しただけ」、「音楽理論に従って作曲したら似ているのは当たり前」、といった反論が返ってくるかもしれません。
たとえ、真実はフォロワーのBさんが「著作権のことを知らずにうっかり」やってしまった行為であったとしても、これではお互いに不幸ですよね。
このように、オリジナルの作品へのリスペクトがあればこそ、一ファンとしてその作品やアーティストに対してどのように行動すべきか、どのような行動がまずいのか、私たち一人ひとりが著作権の基本的なところを知っておいて損はないでしょう。
まとめ
「著作権」やその周辺に発生する権利は、クリエイターや関係者を保護するためになくてはならないものです。しかし、その権利を侵害されたとき、あるいは侵害されるおそれがあるとき、権利者は多大な労力をつかって争わなければならなくなります。
インターネットの定着は、私たちに音楽や映像作品をより身近な存在にさせてくれました。一方、それらにまつわる権利を侵害する行為は、作品やクリエイターの評価を貶め、文化の発展を妨げることにも繋がります。
適切な距離で作品を楽しむこと、また、それらを産み出し伝達する人々を尊重することを決して忘れたくないものです。