著作権にかかわる事件といえば、記憶に新しいのが海賊版サイト「漫画村」。サイト自体は2018年に閉鎖され、運営者は2019年に著作権法違反の容疑で逮捕されました。
しかし、いまなお数多くの違法サイトが乱立し、一つのサイトが閉鎖してもまた新たなサイトが誕生する……というイタチごっこが続いています。
こうした現状を打開することを目的に、2020年2月4日、日本漫画家協会と出版広報センターは、「海賊版対策のための迅速かつ適切な著作権法改正を求める共同声明」を発表しました。
この声明は、インターネット上の海賊版サイトにおいて、漫画家やクリエイターらが不利益を被っている実情について著作権法の改正を求めるものです。
具体的には、「侵害コンテンツのダウンロード違法化」と「リーチサイト規制」を目的とした、著作権法改正案の通常国会への提出および成立を願うものとなっています。
これらの声を受け、海賊版対策を強化することを目的とした改正著作権法が同年6月5日の参議院本会議で可決・成立しました。
漫画村の問題点
海賊版サイト「漫画村」を実際に利用していたユーザーの中からは、サイトの閉鎖を惜しむ声も多くあがっています。
しかし、「漫画村」を始めとする海賊版サイトが、著作権法を侵害している有害な存在であることは事実です。こうした海賊版サイトが運営され続け、ユーザーの利用が絶えない限り、漫画家およびクリエイターは職業生命を脅かされ続けることでしょう。
では、「漫画村」にはどういった問題点があったのでしょうか。大前提として、「漫画村」は著作権法を侵害した違法サイトです。
具体的には、漫画作品を漫画家およびクリエイターの許可なく、インターネット上でアップロードをしたことにより、著作権法第23条「公衆送信権」に違反しています。
さらに「漫画村」は、ユーザーがサイトにアクセスしたことで多額の広告収入を得ていました。漫画家およびクリエイターは、原稿料のほかに、漫画の売上部数に応じた印税を手にしています。
作品に人気が出ると、映像化やグッズ化など、さまざまな媒体へと展開されていきますが、もっとも重要なのが印税といっても過言ではないでしょう。
しかし、「漫画村」を介して漫画を読んでも、著作者である漫画家・クリエイターに報酬が支払われることはありません。
それどころか、違法な手段で漫画をアップロードした第三者が、本来なら漫画家・クリエイターが手にするべき報酬を横取りしている状態なのです。
実際に、漫画業界では「漫画村」を始めとする海賊版サイトの影響により、漫画家・クリエイターおよび出版社の売上が20%減少し、額にして約3200億円もの被害が出ているともいわれています。
公衆送信権とは
「漫画村」運営者が違反した著作権法第23条の「公衆送信権」。条文には、「著作者は、その著作物について、公衆送信(自動講習送信の場合にあっては、送信可能化を含む。)を行う権利を専有する」とあります。
わかりやすく説明すると、「著作者(ここでは漫画家およびクリエイター)が、自らの著作物(漫画作品)をテレビ・ラジオ・インターネットなどのメディアで、不特定多数の人々に向けて発表する権利を独占できる」という法律です。
1995年頃まで、いわゆる海賊放送は大半の人々にとってあまり身近ではありませんでした。そもそもの放送媒体がテレビやラジオに限られてくることから、相応の技術と設備が必要となったためです。
しかし、1995年にWindows95が発売されたことを皮切りに、インターネットが一般家庭へと普及していきます。パソコンと電話回線さえあれば、世界中と繋がれるメディアが一気に身近な存在となったことで、海賊放送を取り巻く問題は存在感を増していきました。
現代、インターネット回線は固定電話すら必須ではありません。スマートフォンやインターネットカフェなどの普及に乗じて、誰もが気軽に世界中にアクセスし、情報の受信も発信も思いのままなのです。「漫画村」は、まさに時代の波に乗った違法ビジネスの代表例といえるでしょう。
海賊版のダウンロード規制強化へ
こうした実状から、違法ダウンロードの規制対象を拡大する改正著作権法が2020年6月5日に参議院本会議で可決・成立されました。
ここで注目したいのが、「インターネット上の海賊版対策の強化」です。2020年2月4日に日本漫画家協会と出版広報センターが声明を出した「リーチサイト対策」と「侵害コンテンツのダウンロード違法化」について、二段階に分けて施行開始されることとなりました。
①②共に親告罪であり、民事措置や刑事罰には著作権者側の告訴が必要となります。
①リーチサイト対策(2020年10月1日施行開始)
リーチサイト等を運営する行為等を、刑事罰の対象とする。リーチサイト等において侵害コンテンツへのリンクを掲載する行為等を、著作権等を侵害 する行為とみなし、民事上・刑事上の責任を問いうるようにする。(「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律の概要」より)
リーチサイトとは?
リーチサイトとは、侵害コンテンツへのリンク情報をまとめ、ユーザーを侵害コンテンツに誘導するサイトのことです。また、こうしたサイトのアプリ版をリーチアプリと呼びます。
違反するとどうなる?
今回の改正により、リーチサイト(リーチアプリも含む)において侵害コンテンツを提供した場合、リンク提供者に対して刑事罰(3年以下の懲役または300万円以下の罰金など)が科されることとなりました。また、著作権者側は、差止請求・損害賠償請求などの民事措置を行うことができます。
さらに、リンクを削除できる状態にも関わらずサイト運営者・アプリ提供者がリンクを削除しないなど、違法な行為を継続・助長する場合には、刑事罰(5年以下の懲役または500万円以下の罰金など)が科されます。また、著作者側は、民事上の差止請求・損害賠償請求を行うことができます。
※実質的なサイト運営・アプリ提供などを行っていないプラットフォーム提供者は、規制の対象外です。
②侵害コンテンツのダウンロード違法化(2021年1月1日施行開始)
違法にアップロードされたものだと知りながら侵害コンテンツをダウンロードすることについて、一定の要件の下で私的使用目的であっても違法とし、正規版が有償で提供されているもののダウンロードを継続的に又は反復して行う場合には、刑事罰の対象にもする。
(「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に関する法律の一部を改正する法律の概要」より)
侵害コンテンツとは?
侵害コンテンツとは、違法にアップロードされた著作物などを指します。これまで、違法ダウンロードの対象は音楽と映像のみでした。しかし、今回の改正では、漫画、書籍、新聞、論文、ソフトウェアのプログラムなど、すべての著作物に対象が拡大されています。
違反するとどうなる?
今回の改正により、あらゆる著作物において、違法にアップロードされていると知りながらダウンロードすることが違法となりました。違反した場合、著作権者側は損害賠償請求などの民事措置が可能となります。
さらに、公式サイトなどで正規版が販売されているのにも関わらず、継続的、または反復してダウンロードする場合、刑事罰(2年以下の懲役または200万円以下の罰金)が科されます。また、下記に該当する場合は、規制の対象外です。
- 違法にアップロードされたことを知らなかった
- 漫画の1コマ~数コマなど、軽微な分量だった
- 二次創作やパロディなどの二次的著作物だった
- 著作権者側の利益を害しないなど、特別な事情がある
まとめ
電気通信大学によると、「著作権者に無許諾でアップロードされた侵害コンテンツは、リーチサイトにリンクが貼られることで、約62倍も多く試聴されてしまう」との調査結果が出ているそうです。
(「著作権法及びプログラムの著作物に係る登録の特例に 関する法律の一部を改正する法律 御説明資料」より)
海賊版サイトでお金を払うことなく楽しむ人が大半になれば、どんな人気作も衰退してしまいます。自分が好きな作品を守るのは自分自身であることを念頭に置き、コンテンツを正しい方法で楽しみましょう。