楽しみにしている漫画の続きを、誰かにネタバレされて嫌な気持ちになったことはありませんか? 最近では、公式の発売日に先駆けてSNSでネタバレ画像が出回る、ということも少なくありませんよね。
いち早く続きが読みたくて、いつも真っ先に雑誌や電子書籍を購入しているのに、誰かの軽率な行動のせいで新鮮な感動や驚きを台無しにされることは避けたいものです。
そもそも、こうした雑誌などの記事画像を無断でインターネット上にアップロードする行為は、著作権の侵害にあたります。
しかし、スマートフォンやフィーチャーフォンにカメラ機能があたり前に搭載され、誰でも簡単にインターネットで世界中にアクセスできる現代。
罪の意識を持たないまま軽はずみに、あるいは誤った親切心でこうした行為を繰り返している人々の存在が問題となっており、ニュースでも数多く報道されています。
著作権侵害の事例ニュース
最近起こった事例を参考に、当該行為が著作権法をどのように違反しているのかについて解説します。
出版社からの注意喚起が話題に!雑誌記事の無断転載に待ったがかかる
2020年7月29日、小学館は月刊ヒーロー雑誌『てれびくん』の公式アカウント上で、著作権侵害にまつわる注意喚起を行ないました。雑誌に掲載されている記事を撮影・スキャンした画像をインターネットなどでアップロードされていることに苦言を呈したものです。
「てれびくん」編集部からのお願いです。最近、「てれびくん」の記事を撮影・スキャンしてネット等にUPする事例が散見されます。発売日前・後を問わず、本誌記事を無許可転載する行為は著作権法違反になり、侵害行為の差し止めや刑事罰の対象となります。なにとぞ皆様のご協力をよろしくお願いします。
— てれびくん【公式】 (@Televi_Kun) July 29, 2020
<『てれびくん』公式ツイッターアカウントより>
この翌日には、KADOKAWA Game Linkageが発行するゲーム専門誌『週刊ファミ通』の公式ツイッターアカウント上でも、次の注意喚起が行なわれました。
【編集部からのお願い】
週刊ファミ通誌面を撮影、スキャンなどして、SNSなどインターネットに掲載する行為は著作権法違反となります。雑誌の発売日前・後を問わず、本誌記事を無断転載するのはおやめください。
また、記事内容の過度な引用・抜粋もお控えください。よろしくお願いいたします。
— 週刊ファミ通@毎週木曜発売 (@WeeklyFamitsu) July 30, 2020
<『週刊ファミ通』公式ツイッターアカウントより>
両媒体ともに共通しているのは、誌面を撮影・スキャンした画像をインターネット上にアップロードする行為は著作権法違反となるということです。『てれびくん』のアカウントでは、発売日前・後を問わず、こうした行為が刑事罰の対象となることを呼びかけています。
さらに、『週刊ファミ通』では画像の無断転載だけでなく、記事内容の過度な引用・抜粋も控えてほしい旨が換気されていました。
「引用」と「転載」どう違う?
では、これらの行為がどのように著作権法を違反しているのでしょうか? ここでキーワードとなるのが、「引用」と「転載」です。
まず、「引用」とは、自らの論を説明・証明したい際や、他者の著作を紹介したい際などに、自身のオリジナル文章の中で他人の著作を副次的に取り入れることを指します。
次に、「転載」とは、他人の著作物を複製し、もともと公開されていた場所とは異なる場所(本件でいえばインターネット上)で公開することを指します。
著作権法上で「引用」と「転載」はどちらも「複製」の行為にあたります。そして、同じ「複製」であっても、「引用」は正当な範囲内であれば著作権者の許諾なく行なうことができますが、「転載」は正当な範囲を超えてしまうため、著作権の侵害となってしまうのです。
ここでいう正当な範囲とは、あくまで自身の文章が主体であり、引用文は主従関係でいうところの「従」に位置するということ。つまり、あなたの文章が主役であり、引用はそれを支えるためのエッセンスでなければならないのです。
そのため、両媒体が注意喚起を行なった、あくまでネタバレなどを主体にして記事の画像をアップロードする行為は、「引用」ではなく「無断転載」となります。もちろん、画像に一言、二言、コメントをつければ許されるというものではありません。
また、『週刊ファミ通』のツイートに記載されていた「記事内容の過度な引用・抜粋もお控えください」という文言について、「引用なのだから問題がないのでは?」と感じた方もいるかもしれません。しかし、ここで指摘されているのは、印象的なセリフなどを少々抜き出して感想や持論を語るものではないと考えられます。
たとえば、自分のブログなどでどれだけ長文の持論を展開したとしても、そこに他者の著作物のほぼ全文を抜き出してしまえば、その行為は正当な範囲内であるとはいえません。当人が「引用」のつもりであっても、主従関係の従を逸脱した、「無断転載」の領域に踏み込んでいるといっていいでしょう。
これを認めてしまえば、他者の著作物から抜き出されたほぼ全文を目当てに、ブログを閲覧する人ばかりになるのではないでしょうか。これでは、第三者が当該著作物の内容をブログ上で目を通すだけで満足してしまい、正当な手段で入手・閲覧する機会を逸してしまう可能性があります。著作者への評価や、得られるはずだった金銭的利益などにも損害が生じるおそれがあるのです。
実際のところ、2019年7月から始めた「著作権侵害簡易判定サービス」には、400件を超える相談が寄せられており、「引用」の要件を勘違いしている方や、そもそもみんなやっているからOKでは?といった内容の相談も多くありました。
著作権法が規定する「引用」として著作権者に許諾を得なくとも利用できる範囲は上記の他にもあります。
例えば、自身のコンテンツと引用する他人のコンテテンツが鍵かっこ(「 」)やクォーテーション・マーク(” ”)、罫線等で明瞭に区別されていること(明瞭区別性)、引用元の書籍のタイトルや出版社等の出典を示すこと(引用元等の明示)などの要件がこれまでの裁判例に基づいて確立しつつあります。
ところが、具体的にどこまでが許されて、どこから先がダメなのかについて、裁判所の判断は、実際のところ専門家が見ても一貫性がなく、具体的なケース一つ一つについて、裁判の帰趨(きすう)は中々読めないものです。
一方で、上記のように明らかに「引用」の要件を満たしていない、「一発アウト」の案件も多々あるのも事実です。それは、SNSが社会に浸透し、誰でも、簡単に、コピペによるシェア・拡散が可能となったこととも無関係ではないでしょう。
「著作権侵害簡易判定サービス」に寄せられる相談の中にもYouTubeへのアップロードに関するものが多くありました。
YouTubeへのアップロードについては、広告料の配分の問題もほぼ一体となり、オリジナルの著作物の売上を棄損した場合は、著作権法違反だけではなく不正競争行為として損害賠償の対象となる可能性もあり、「知らなかった」では許されないことを理解したうえで、私たちに与えらえた素晴らしいメディアでもあるSNSを「フェアに」楽しみたいものです。
アーティストも苦言を呈す、近年の著作権侵害事例
2019年5月、俳優・歌手・文筆家の星野源さんは、自身のレギュラーラジオでSNS上の画像無断使用に苦言を呈しました。ことの発端は、リスナーから届いた「私はSNSで源さんの顔写真をアイコンに使っていますが、源さんはどう思いますか?」という質問でした。
星野さんは、これに対して「僕の個人的な思いとしては嫌です」と語っています。実際に、ツイッターなどでは好きなアーティストやキャラクターの画像をアイコンとして使用しているユーザーが多く、星野さんの顔写真も多くのファンが使用していました。
星野さんは、雑誌記事の画像やテレビ番組でのスクリーンショットなどを無断でアイコンとして使うことは法律違反であることを説明し、どうしても星野さんのビジュアルを使用したい場合には、自身でイラストを描いてほしいと語っています。
朝日新聞より
インターネットが広く普及した頃から、画像の無断転載は多くの人々から問題視されてきました。一方で、SNSにおけるシェア文化の浸透から、アーティスト側も自身の作品の無断転載を黙認しているケースも珍しくはありません。
しかし、星野さんからのメッセージは、ファンだから、好意があるからといって許されるわけではないことをはっきりと示してくれた事例となるでしょう。
2017年6月29日には、人気デュオのコブクロも公式Facebook上において、個人制作のグッズに関する注意喚起を行なっています。それまで、コブクロの公式サイドは「個人で描いたイラスト」を「個人で楽しむ範囲内」に限り、グッズ制作を許容してきました。
しかし、こうした行為がエスカレートし、公式サイトのオフィシャルロゴやツアーロゴ、アーティスト写真などを許可なく転載したグッズを制作しているグループが散見されるようになったそうです。
これを受け、コブクロの公式サイドは肖像権・著作権の侵害にあたるこれらの行為が決して認められるものではないことを訴えました。そして、当該グループに対して制作グッズの即刻回収および主な活動場所であるFacebook上の関連記事の削除を呼びかけ、ファンに対しても、グループ名を明らかにしたうえで制作物の持参・着用を控えるよう呼びかけたのです。
この「個人で楽しむ範囲内」についても、FacebookやInstagram、YouTubeをはじめとするSNSの浸透との関係は見逃せません。
著作権法では、著作権者の許諾なく利用できる範囲は「個人的に又は家庭内その他これに準ずる限られた範囲内において使用すること」とされており、例えば自分が好きなアーティストのロゴや写真を入れて、自分の通学カバンにつけるキーホルダーを作って自分で使う、という範囲であれば問題とはならない一方で、その写真を撮ってSNSにアップロードすると、「個人て楽しむ範囲内」を超えてしまうのです。
あるいは、自分が好きなサッカー選手の写真を入れたゲート・フラッグ(ゲーフラ)を制作して自分の部屋に飾るのは問題とはならない一方で、それを持って応援する動画をYouTubeにアップロードする行為や、実際にスタジアムで掲げる行為(スタジアム内の第三者の目に触れ、TV中継にも映る)もまた、「個人て楽しむ範囲内」を超えてしまいます。
このように、ファンがアーティストやプロ選手を応援する「気持ち」に何ら変わりはなくとも、SNSがあっという間に「個人で楽しむ範囲内」を飛び越えてしまうパワーを持っていることを覚えておくとよいでしょう。
まとめ
近年では、若年層を中心に「拾い画」などと称し、検索や第三者の投稿からダウンロードした画像を著作権者の許諾なく無断使用しているケースが多く見られます。
しかし、「こんなことで罪に問われるわけがない」「みんながやっているから大丈夫だと思った」と安易に受け流すのではなく、それらの一つひとつが誰かの著作物であり、それぞれに権利が発生していることを決して忘れてはならないでしょう。