たとえば、好きなアーティストを友人に広めたいとき。「SNSに歌詞を載せたいけど、著作権に違反しないかな?」と不安に感じたことはないでしょうか。
あるいは、あなたの描いたイラストが誰かに無断転載されたとき。「これは私が描いたのに……でも、私はプロじゃないから著作権なんて発生しないのかなぁ」と、文句を言えなかったことがあるかもしれません。
著作権と一言にいっても、それがどんなもので、どんなときに必要となるのかを真剣に考えたことがないという人は多いでしょう。
しかし、SNSを始めとするインターネットが生活に根づいた現代において、著作権は、あなた自身の権利を守ることにもつながる重要な権利なのです。
そこで、著作権について押さえておきたいポイントを、具体例とともにわかりやすく紹介していきます。
著作権とは?
著作権は、「『著作物』を創作した『著作者』の権利を守るため」に生まれ、そのためのルールが著作権法として定められています。
では、著作権を保護することで、実際にどのような権利が守られるのでしょうか? その究極の目的は、「文化の発展」とされています。
たとえば、作詞・作曲を手がけるアーティストが新曲を発表したとします。しかし、もし著作権が保護されていなければ、第三者に盗用されたり、それによって正当な評価や金銭が得られなかったりする可能性があるのです。
せっかくつくった作品を第三者がつくったことにされれば、そのせいでアーティストは辛い思いをしますし、生活が成り立たなくなってしまうかもしれません。そんな状況になれば、誰もが作品を発表しにくくなりますよね。
だからこそ、著作権は、そういったデメリットを防ぐためにに活用されています。これによってアーティストがさまざまな創作活動をしやすくなり、多くの人々が娯楽や芸術として、作品の魅力を享受することができるのです。
著作物とは?
たとえば、プロのアーティストが制作した楽曲。これはもちろん、『著作物』に該当します。では、あなたが休日に描いたオリジナルのイラストはどうでしょうか?
事務所などに所属せず、イラストを介して金銭を得たことがなく、展覧会などで披露することもない、完全な趣味としてのイラストです。
中には、「作品としてどこかに登録したわけでもないのに、著作権が発生するわけがない」と思う方もいるでしょう。しかし、これも立派な『著作物』に該当します。
『著作物』は、プロやアマチュアの域を問いません。人がなにかを感じ、その思いや考え方を工夫して表現したものであれば、その作品は『著作物』となります。
つまり、CDや配信を通じて楽曲を発表するアーティストも、休日に趣味でイラストを描いているあなたも、『著作物』があれば『著作者』となるのです。
また、日本では、著作権を得るにあたっての手続きや申請などを必要としていません。これは、「なんらかの『著作物』が誕生した瞬間に、『著作権』も発生する」という考え方がもとになっているためです。
この形式を無方式主義といい、日本を含む世界150ヵ国以上の国々で採用されています。
無方式主義のメリットは、大きく分けて二つ。一つ目は、手続きや申請などを必要としないことで、時間や経済面などにおける『著作者』の負担が軽減されることにあります。
そして、行政庁による審査が発生しないことで、検閲制度につながることを避けられ、表現の自由が守られているとも考えられるのです。
著作物の具体例
一言に『著作物』といっても、その種類はさまざまです。著作権法の第10条1項では、『著作物』の例として次のものがあげられています。
- 言語の著作物(小説、脚本、論文、講演など)
- 音楽の著作物
- 舞踊または無言劇の著作物
- 美術の著作物(絵画、版画、彫刻など)
- 建築の著作物
- 図形の著作物(地図や学術的な模型など)
- 映画の著作物
- 写真の著作物
- プログラムの著作物
ただし、これらはあくまでたとえに過ぎません。著作権法における『著作物』には、「思想または感情が表現されたものであること」が定められています。
たとえば、あなたが登山をしている最中にきれいな石を拾ったとしましょう。
その石は、長い年月をかけて風雨や砂利などに磨かれ削られ、とても美しい輝きを放っています。その美しさに感動したあなたは、その石を記念に持ち帰りました。
では、あなたの心を震わせた美しい石は、誰かの『著作物』となるでしょうか? 残念ながら、答えはノーです。
なぜなら、その石は「思想または感情が表現されたもの」ではなく、天候や気候、環境など、自然の影響を受けて偶然形づくられたものだからです。そのため、石そのものは「その場所に石があった」
「その石を発見した」という事実でしかなく、『著作物』には該当しません。しかし、石の美しさに魅了されたあなたが、その石をモチーフにしたイラストを描いたとします。
イラストには、「この石は、太陽の光を受けてこんなに美しい色になる」「いくつもの絵具を混ぜ、この複雑で繊細な色合いを表現し、多くの人に伝えたい」という思いが込められていました。
すると、そのイラストは「思想または感情が表現された『著作物』」に該当するものとなるでしょう。
また、その石を題材にしたノンフィクション小説を書いたとします。
小説には、石を見つけたときの感動や、石を取り巻くエピソード、後日談などが盛り込まれていました。
「その場所に石があった」「その石を発見した」という事実をもとに、あなたの思想や感情が表現されているといえます。
事実だけでは『著作物』になりませんが、ノンフィクション小説という形であれば、事実をもとに思想や感情が表現された創作物となるので、これも立派な『著作物』といえるでしょう。
著作権の侵害と引用の例外
では、こうした『著作物』は、どのように扱うことが適切なのでしょうか?
冒頭で例にあげた、「アーティストの歌詞をSNSで紹介したいけど、著作権が心配……」という悩みに着目してみましょう。
著作権法第32条1項では、
「公表された著作物は、引用して利用することができる」
とされています。結論を先に示すと、あなたが好きなアーティストが書いた歌詞をSNSで紹介しても、それだけで罪に問われることはありません。しかし、引用には一定のルールが存在するため、注意や配慮が必要です。
法律上は、
「その引用は、公正な慣行に合致するものであり、かつ、報道、批評、研究その他の引用の目的上正当な範囲内で行なわれるものでなければならない。」
と記載されていますが、これだとよくわからないですよね。過去の裁判例でもこの解釈が論点となっており、少なくとも①明瞭区別性と②主従関係が必要とされています。
①の明瞭区別性については、「どこからどこまでが引用されているか区別できること」と、「出典元を明確にすること」です。
たとえば、SNS上で、ある楽曲の歌詞と今日のできごとをあなたが連続して綴ったとします。
その投稿には、歌詞とあなたの日記との区別が「カギかっこ」などで区切られておらず、アーティストの名前や曲名も記載されていませんでした。
すると、その楽曲を知らないフォロワーが投稿を見て、アーティストの歌詞をあなたの『著作物』であると判断します。
そして、あなたの投稿に感動したあまり、「○○さん(あなた)には素晴らしい作詞能力がある」とSNSで大々的にシェアしてしまう……という可能性さえあるのです。
同様に、冒頭で例にあげた「自分の描いたイラストが無断転載されている」場合も、あなたが著作権フリーを宣言しない限りは、著作権侵害となります。
②の主従関係は、「引用とはあくまで補足や説明であり、自分のオリジナルの文章がメインであること」です。
たとえば、あなたが「今日の心情にぴったりだ」と感じた歌詞をSNSで紹介するとき、その歌詞だけをSNSに記載するのではなく、「なぜその歌詞が心に響いたのか」「どんなことが起きてどのように感じたのか」など、あなた自身の思いや事実を書き記したメインの文章を発表することで、初めて引用が成立するのです。
さらに、「引用は適切な分量に留めること」も忘れないようにしましょう。引用の分量について、明確な規定はありません。
しかし、どんなに感銘を受けた歌詞でも、全文を掲載してしまってはアーティストに経済面などで悪影響を与えてしまう可能性があります。
もっと極端な例をあげるならば、小説の全文をSNSに載せてしまっては、本が売れなくなってしまいますよね。そのため、先に述べたとおり、「引用とはあくまで補足や説明であること」が重要なのです。
まとめ
著作権について改めて知ることにより、私たちの生活には『著作物』が大量に溢れ、身近な人々やあなた自身も『著作者』であることが実感できたのではないでしょうか。
もちろん、著作権法の中には複雑なルールがたくさんあります。しかし、なによりも大切なのは『著作者』と『著作物』を尊重することです。
『著作者』に敬意を払い、『著作物』を我もの顔で私物化せず適切に引用することで、私たちの生活はより豊かなものとなり、ますます発展していくことでしょう。